臨死体験者と気エネルギー

 ★以下は、拙著『臨死体験研究読本』(アルファポリス刊、2002年11月)の第1章の一部要約です。⇒(本についての詳細)

◆劇的な回復◆

 「臨死体験」以前から患っていた難病が、体験後に完全に治ってしまったというような典型的な事例がいくつ報告されている。

  ある研究者は、突然、癌がなくなったり、脳腫瘍が消える、あるいはある男性のエイズが体験後に跡形もなく消えた例があると報告している。(アトウォーター『光りの彼方へ』) 一方、臨死体験そのものの原因になった瀕死の病気や致命傷から、体験後に奇跡的に回復したという例はいくつか報告されている。

  たとえばアメリカ人男性、ダニオン・ブリンクリーは、電話中に電話線を伝わって落ちた雷に打たれて全身に火傷をおい、救急車で運ばれたが心停止のため医師に死亡を宣告される。顔にシーツをかけられ、まさに遺体安置所に運び込まれようする直前に、家族や友人の生き返って欲しいという願いを感じて、自分の「遺体」の中にもどったという。その間にきわめて印象的な臨死体験をしているのだが、その内容はあとで詳しく見る。ここで確認すべきは、彼もまた医者の予想に反して、信じがたいほど驚異的な回復をしているということだ。彼ほどひどい雷の衝撃を受けて生き延びた人間はほとんどいなかったようで、貴重な事例として専門家グループが事故直後にわざわざ検査に来たほどだった。しかし医者たちは、「心臓の損傷がひどすぎるのでもう望みはない、死ぬのは時間の問題だ」と考えていた。だから彼が生きながらえて社会的な活動を開始したとき、それは一種の医学的奇跡にも等しいことだったようだ。ただ彼自身は、臨死体験の中で自分が生き延びる運命にあることを知り、体験後も神々しい光からの愛に支えられながら、すさまじくも感動的なリハビリに耐え抜いていったのだ。

  また、T氏は、交通事故で意識不明の重態におちいり、その時に臨死体験をする。ケガは救いようもなくひどいものだった。

  脛骨損傷、骨盤骨折、右股関節脱臼、右膝関節骨折、左手首骨折、左肩関節剥離骨折など、骨折多数。骨盤が砕け、右大腿骨が骨盤からはずれて、骨動脈の四本がすべて切断されている。骨盤はボルトで結合したが、動脈の縫合はできず、自然治癒に期待するしかなかった。動脈四本がすべてつながる可能性はわずか六パーセントで、一本でもつながらなければ骨は壊死し、自分で歩ける可能性はなくなるというのだ。医者の判断は、「回復困難、ひどい後遺症になるかもしれず、社会復帰は無理だろう」というものだった。  ところが絶望的な闘病の中で、忘れていた自分の臨死体験を思い出し、生きる道をはっきりと自覚するにつれて意欲が湧きあがった。それから奇跡的な回復がはじまる。結果は医者の判断をまったく裏切り、事故からわずか1年で社会復帰を果したという。そして自分の使命を果すために全国を精力的に飛び回る活動をはじめたのだ。臨死体験後の彼にどのような意識変化が起こり、どのような使命を自覚するに至ったのかについては、他の臨死体験者の事例tとともに上の本でじっくり検討したい。

◆生理的な変化◆

  こうした臨死体験後の奇跡的な回復の事例は、それほど多くないにしても他にも確実に存在する。しかしそうした事例をいくつか並べるよりももっと重要なことは、体験者たちの多くが体験後の自分の肉体的、生理的な変化を明らかに自覚しているという事実だろう。

  臨死体験の研究に科学的・統計的な方法を導入したケネス・リングは、体験者の体験後の変化とその意味とに一貫して興味を示してアンケート調査を行い、統計的な研究をおこなっている。そのうち人生観、価値観等の意識変化については次章でふれるが、さらに彼は、体験者の生理的・身体的な変化についても調査をおこない(体験者群七五人、対照群五四人についての調査)、興味深い結果を得ている。たとえば体験者の多くが、体内にエネルギーの流れのようなものを感じるようになったとか、睡眠が減っても元気でいられるといった報告をしている。具体的には五〇,五パーセントが、体験後に生体エネルギーが増大したという自覚をもち、また三九、二パーセントが睡眠時間が減少したと答えている。これに対し、臨死体験に興味はあってもみずからは体験したことはない「対照群」の人々の変化は、生体エネルギーの増大が一三、〇パーセント、睡眠時間の減少は一六、七パーセントに過ぎない。(リング『オメガプロジェクト」オメガプロジェクトより)

 またみずから臨死体験者であり研究者でもあるフィリス・アトウォーターは、体験者七〇〇名にインタビューをする中で、体験者の生理的・身体的変化に、たとえば次のような傾向があることが分かったという。すなわち、体験者は容貌も行動を実際の年齢より若い傾向があり、また胃腸の消化活動が早くなり、切り傷が早く癒えるなど、全体的に健康状態が向上する傾向があるというのだ。これは、対照群との比較等を含めたしっかりした統計的な数字による裏付けがあるわけではないし、容貌が実際の年齢より若く見えるかどうかなどはかなり主観的な判断だと思う。しかし、リングの研究と重ね合わせればひとつの参考にはなると思う。

 

◆ヒーリング能力の目覚め◆

  アトウォーターはまた、体験者の事後変化の中に、まれではあるが確実にヒーリング能力に目覚める例があることを報告している。鈴木秀子氏のように人を癒す能力を得る例が他にもあるというわけだ。ところで、さきほど触れたリングのアンケート調査でも「超能力が増進したかどうか」、「癒しの能力が身についたかどうか」を問う項目があり、興味深い結果が出ている。超能力についは体験者の六〇、八パーセントが増進したと答え(対照群では三一、五パーセント)、癒しの能力についても体験者の四一、九パーセントがそうした能力が身についたと答えている(対照群では一一、一パーセント)。これは「まれ」どころか驚くほど高い数字だが、リングの研究はあくまでも報告者の主観的な実感によるものだから、たとえば癒しの能力に目覚めたといってもそれが実際にどの程度のものなのかまではわからない。しかし体験者の何割かにこのような能力に目覚めたという自覚があることは事実であり、また自覚がある以上は、実際にそうした能力をもつ体験者が、ある程度は存在する可能性がないとは言い切れない。

◆気エネルギーと覚醒◆

  しかし、これらの生理的・身体的変化は、『臨死体験研究読本』のテーマである「臨死体験と悟り体験との比較」という問題にどんな関係があるのだろうか。実は先に触れたリングの調査は、臨死体験者の子供時代の経験や家庭環境、心理や精神=身体的変化、人生の変化、宗教観や意見の調査を含む大掛かりなものである。精神=身体的変化(心と体の両方にまたがる変化)に関する質問だけでも60項目もある。  それらの中には、クンダリニーの覚醒を測定するための質問、九項目も含まれている。クンダリニーとは、インドのタントラ・ヨーガでいう宇宙生命エネルギー(プラーナ)のことである。それは、ふだんは尾てい骨のあたりに眠っているが、修行によって活性化されるという。

 クンダリニーの覚醒を測定するための質問とは、「手にエネルギーを感じることが以前より多くなった」、「激しい頭痛や偏頭痛が以前よりよく起きるようになた」、「自分の身体を貫いてエネルギーが流れる、あるいは放出されるのがわかるようになった」、「自分の内部に光や色が見えるようになった」等であり、体験者の回答はいずれの質問項目でも高い数値を示している。これは、体験者の多くのクンダリニーが覚醒する兆候を示していることを暗示する。リングは、質問項目にあるような生理的変化を含む「クンダリニー症候群」が臨死体験のもたらす精神=身体的変化のパターンの一部、あるいはむしろ、そのパターンの基礎をなすものではないかとさえ述べている。

  ところでクンダリニーの活性化が始まると、上の質問項目のような身体的変化のほかに激しいショックを伴ってエネルギーが脊柱を上昇し、それとともに何らかの超能力が目覚めたりすることもあるとされる。そして最終的にはクンダリニーの覚醒が、宇宙との深い一体感やエクスタシー、あるいは解脱につながっていくという。つまり、ヨーガの修行によって修行者が精神的な目覚めに至る過程で自覚する生理的な変化は、臨死体験者が自覚する生理的変化ときわめてよく似ているのである。

  またリングは言及していないが、「手にエネルギーを感じる」、「自分の身体を貫いてエネルギーが流れたり放出されるのがわかる」、「自分の内部に光や色が見える」等の感覚は、気功の修行者も、その修行の過程でよく経験することである。ヨーガでいうプラーナと気功でいう気とは、きわめて近しいもののようだ。

  どちらも宇宙に遍満し、生命活動の根源にかかわるエネルギーでありながら、物質的なものとも精神的なものとも限定できず、むしろその根底をなすといわれる。しかも体内に気の回路である経絡があるように、ヨーガでもプラーナの流通路である無数の「ナディ」が存在するという。そして気功もまた、その修行のなかで気のエネルギーや質を高め、それによって最終的にには「天地人合一」、つまり「悟り」の境地に達することをめざすのである。

 要するに臨死体験者に見られるような様々な生理的変化は、プラーナや気と呼ばれるような宇宙生命エネルギーの増大と深い関係があり、一方でまたそのような宇宙生命エネルギーの高まりは、人間の精神的な覚醒と深く関係している可能性があるのだ。 『臨死体験研究読本』はこのあたりの問題が主題ではないが、詳しくは『臨死体験と気の世界』(仮題)で考察するつもりである

霊性への旅

臨死体験も瞑想も気功も、霊性への旅、覚醒への旅・・・

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